千葉大学では、2016年より主要研究分野のさらなる発展を目指す「戦略的重点研究強化プログラム」を推進しており、その6課題の一つとして「ファイトケミカル植物分子科学」が選定され、活動を進めてきました。そして2019年10月1日、これまでの成果をもとに「千葉大学植物分子科学研究センター」が設置されました。
本センターでは、地球と人類を支える植物について、植物分子(特に、遺伝子と成分)に注目し、ゲノムと環境で規定される植物機能の分子的解明とその応用を目指して研究を推進していきます。植物分子科学における「多様性と普遍性」という統一キーワードのもとに、「植物ゲノム機能科学」「植物成分化学」「植物環境応答」の3つの研究部門で構成され、相互に強い連携とそれによるシナジー効果を生み出すことを目指しています。
植物が作る多様な化学成分(ファイトケミカル)は、薬や食品、燃料、工業原料などに使われ、我々人間の生命を支えています。このように私たちは、植物の恩恵を受けて生きていますが、植物側から見ると人間に恩恵を与えようとしているわけではありません。植物は、「動かない」という生存戦略を進化の過程で発達させ、その過程で極めて多様な化学成分を作るようになったのです。
本来、植物化学成分は、外敵に対する植物の防御や繁殖などのために作られた物質なので、様々な化学構造を持ち特異な生物活性を有しています。これを植物の代謝的な表現型(フェノタイプ(P)またはメタボロタイプ)と言います。この代謝表現型は、植物が持つ遺伝子の総体であるゲノム(G)と、環境に応じた分子応答(E)によって決められます。従って、ファイトケミカルに関するこれら3つの重要な要素は、次のような単純な関係式で表されます。
■表現型(P) = ゲノム(G) × 環境(E)
本研究センターは、この植物化学成分に関する分子科学的な原理を明らかにする事を大きな目的にしています。まず、第一にこのように多様なファイトケミカルは、どのように植物ゲノムの機能によって作られ、その植物ゲノムはどのように多様性と普遍性を有しているのかを解明します。第二に、これらのファイトケミカルはどのような化学構造を有し、どのような生物機能を発現するのかを明らかにします。第三には、これらのゲノム遺伝子の発現やファイトケミカルの生産は、どのように環境に応答して変化するかを解明します。さらに、そこで得られた成果を、最終的には植物成分による新しい医薬品や試薬の開発、健康機能食品の開発、化粧品・香料・燃料などの工業原料に応用して、私たちの生活を豊かにする事が目的です。